坂角総本舖の商品一覧（Amazon）を見る海の上品を一枚に凝縮する、名古屋の正統派手土産「ゆかり」。
金鯱の街で手土産の定番として名を馳せる坂角総本舖「ゆかり」は、海老の旨味を潔く立て、香り高く焼き締めた一枚の中に礼節と歓待を宿す菓子である。口に含めばまず潮の香が凛と立ち、ほどける塩味が甘さを誘い、噛むほどに海老の身の密度が舌に重なっていく。砕ける音は華美ではなく、控えめでいて晴れやか。皇室ゆかりの場に通じる節度、日本の伝統が尊ぶ清潔な味わい、老舗ブランドの緊張感ある仕立てが、贈る人と受け取る人の心を同時に正す。名古屋から全国へ、そして海外の食卓にまで広がったこの一枚は、旅先の記憶を連れ戻すだけでなく、日常の茶の間をそっと格上げする。素材を足さず引かず、海老の透明な旨味と生地の焼きが生み出す陰影を大切にする姿勢が、世代を超えて選ばれる理由である。
出典：坂角総本舖
濃尾の海が運ぶ産物と城下の粋が出会い、明治の気風を吸って磨かれた名菓の系譜。
物語の背景には、伊勢湾から三河湾へと続く豊かな漁場と、尾張徳川の城下に花開いた商いと芸の文化がある。江戸のころ、この地は海からの恵みが川を遡って市に集まり、乾物や海産の加工が日常の暮らしを支えていた。干し海老の鮮やかな紅は、祝い膳の吉兆としても重んじられ、武家も町人も折にふれて“海老のめでたさ”を口にした。明治に時代が移ると、文明開化の風が名古屋の街にも吹き込み、洋の技術や機械が商いの現場に入り込む一方で、食の世界では“土地の味を正しく整える”という保守の気風がむしろ強くなる。坂角は、そうした転換期に生まれた海老せんべいの専門家として、乾物や煮干しの世界に近い選別眼を携え、海老の鮮度や大きさの違い、殻の香りの立ち方を、職人の指先と鼻と耳で見極める術を磨いた。都市が拡張し、百貨店という新しい舞台が登場すると、贈答の文法が洗練され、包装と賞味の安定、衛生の担保が重視される。坂角は工房に“焼きの均一性”という命題を持ち込み、炭火から鉄板、そして温度管理が可能な熱源へと移行しながらも、海老の繊維を潰しすぎない圧と、香りを逃がさない時間配分を設計していった。戦時統制が砂糖と油脂、燃料と小麦を締め上げる時代には、そもそもの原点である海老の味を核に据え、配合をそぎ落としても立つ骨格を確かめ、焼き縮みや反りを抑え込む現場知を重ねる。戦後、街に灯が戻ると、名古屋駅の土産売り場は旅情の交差点となり、軽やかで香ばしい“音の良い”菓子は、移動の疲れをほどく小さな祝祭になった。やがて高速道路と航空路が整い、贈答が遠く離れた相手にも日常的に届く時代になると、日持ちと品質の安定が改めて問われる。坂角は原料のトレーサビリティ、微生物管理、油分と水分のバランス制御を徹底し、缶や個包装の設計を更新することで、海老の揮発香と焼きの香ばしさを“開けた瞬間”に焦点合わせする工夫を練り上げた。名古屋人の粋が愛する“きちんとした軽やかさ”は、平成から令和へと続く百貨店文化とオンラインの贈答体験の中でも揺るがない。派手な甘味や過剰なトッピングに寄らず、節度と透明感で歓待する。ゆかりの一枚は、海の産物と城下の礼が結び合った時代の記憶を、現代の口福として今日も更新しつづけている。
海老と生地と火、三つの声をそろえる――“焼きで立てる旨味”の設計思想。
「ゆかり」の核は、選り分けた海老の身を細やかに砕き、生地に均一に行き渡らせながらも繊維の存在感を残す配合にある。殻の香ばしさと身の甘味の比は、季節と漁場で微妙に揺れるため、職人は蒸散の速度と圧のかけ方を日々調整する。焼きは立ち上げの温度で香りの鍵を握る揮発成分を捕まえ、後半で色と水分を微細に整える二段のイメージで進む。音も設計の指標だ。最初の噛み始めに軽い破片音が立ち、すぐに“密度のあるサク”が続き、口中の温度で海老の甘味が膨らむ。塩は控えめに、余韻の輪郭を結ぶだけにとどめるから、緑茶や煎茶の渋み、焙じ茶の香ばしさにもよく合い、珈琲や辛口の泡とも衝突しない。生地表面の凹凸は見た目の陰影を生み、油分に頼らない艶を醸す。缶を開けた瞬間の香りを頂点に持ってくるための個包装と充填の工夫まで含めて、坂角の“焼きで立てる旨味”は一枚の中に整然と息づく。
出典：坂角総本舖
贈答の文法にかなう佇まい――場を選ばず、誰にでも、いつでも恥じない。
老舗の手土産に求められる条件は、味の良さだけではない。箱の大きさと厚みが持ち運びに適し、角が崩れにくく、紙の白さや印刷の光沢が過度に主張しないこと。会社で分けやすい個包装であること。日持ちとアレルゲン表示が明瞭で、世代や嗜好が分かれる場でも安心して差し出せること。「ゆかり」はその文法を満たしつつ、缶や箱の印象に“城下の端正さ”を宿す。結婚や出産の内祝、昇進や転居の挨拶、取引先への季節の贈り物、帰省の折の小さな手土産。あらゆる場面で過不足なく場を整え、開封の軽やかな高揚と一口目の凛とした香りで、その日の空気を数度だけ上澄みへと引き上げる。華美に走らず、しかし侘びへは傾かない。皇室ゆかりの式次第に通じる穏やかな品格が、包装から一枚の焼き上がりにまで通貫していることが、長く愛される本質である。
出典：坂角総本舖
品質と環境への眼差し――正統を未来へ手渡すための更新。
正統は守るだけでは続かない。原料の来歴と規格を明快にし、微生物と水分活性の管理を徹底し、焼成の色と密度をロットごとに記録して再現性を高める。包装は香りの保持と資源配慮の折り合いを探り、必要最小限の層で開封体験を損なわない設計へと磨く。製造現場では衛生と安全の教育を途切れさせず、若い手が音と香りで焼き上がりを読む感性を継げるよう、データと官能を併走させる。オンラインの導線では配送温度帯と到着後の保存案内を簡潔に示し、少量から大口まで贈る相手に合わせた詰合せを柔軟に選べるようにする。名古屋から全国へ、そして海外へ広がるほどに、地域の海と人に還元する輪を意識し、海老の資源や産地の持続可能性への配慮を深めていく。老舗ブランドとしての責任は、味と同じ強度で未来への配慮を織り込むことにある。
出典：坂角総本舖
一枚の凛、茶の間の晴れ――日常を静かに格上げする“海の名刺”。
「ゆかり」は、祭の主役ではない。けれど、日常の食卓や仕事場に小さな晴れを連れてくる。会議の合間の湯呑に、家族の団欒に、久しぶりの再会の手土産に。一枚がほどける音と香りが、その場の会話をやさしく整え、人の背筋を自然と正してくれる。海の産物と城下の礼が結び合い、明治から令和へと磨かれてきた“上品の濃度”は、今も変わらず一枚の中に凝縮されている。皇室ゆかりの節度、日本の伝統が愛する清潔感、老舗ブランドの誠実さ。その三つを携えた坂角総本舖「ゆかり」は、これからも贈る人と受け取る人の間で“海の名刺”として、静かに信頼を積み重ねていくだろう。
出典：坂角総本舖
